膝の中心にある膝蓋骨(お皿)が脱臼してしまう病気です。脱臼には膝蓋骨が内側に落ちてしまう内方脱臼と外側に落ちる外方脱臼があります。膝蓋骨脱臼には先天的と後天的なものがありますが一般的に先天的な要因を持つ場合が多いです。
年齢、犬種、性別に関係なくすべての犬に生じる可能性がありますが、小型犬、特にトイ種に好発します。大型犬には少ないとされてきましたが、これは日本では小型犬の飼育頭数が多いという実情もあり、ラブラドール・レトリーバーやフラットコーテッド・レトリーバーなどの大型犬でも膝蓋骨脱臼は認められます。全ての犬種で内方脱臼の方が多くみられますが、外方脱臼に関しては小型犬よりも大型犬の方が発生位率は高くなります。
膝蓋骨脱臼の診断は身体検査時の所見や、膝蓋骨を用手的に外すことによって行います。脱臼の評価には触診検査によるSingletonの分類などにもとづいたグレード分類が用いられます。
この分類は外れやすさの程度をもとに行うものであり、痛みや機能的な問題といった症状の程度を示すものではありません。また、膝蓋骨脱臼に関連した骨の変形や関節炎の程度を評価するためにレントゲン検査やCT検査を実施する事もあります。
膝蓋骨脱臼正常側面像
膝蓋骨脱臼側面像
膝蓋骨脱臼術後側面像
膝蓋骨脱臼正常正面像
膝蓋骨脱臼正面像
膝蓋骨脱臼術後正面像
臨床症状は脱臼の程度によって様々ですが、脱臼をした時にキャンと鳴いたり、歩いたり回転運動をした後に後ろ足をあげスキップをする様子が見られることがあります。
脱臼が自分で整復可能なものであれば、しばらくすると何事もなかったかのように症状が治まっている事がありますが、脱臼の程度が重度の場合、膝を伸ばす事ができず、腰を丸めクラウチング姿勢になり歩行が困難となります。
罹患動物の臨床経過、身体検査所見、脱臼の程度、年齢などを加味して決定します。
とくにこの機能障害は膝蓋骨が継続的に脱臼することにより、悪化してしまう可能性があるため症状のある若齢犬に関しては早期に外科的療法を行う必要があります。また関節軟骨が摩耗している場合には痛みが慢性化し関節炎へと移行していくため外科的療法が必要です。術式には1滑車溝形成術、2脛骨粗面転位術、3内側/外側支帯の開放術、4縫縮術、5大腿骨骨切り術などがあり、単独で恒久的に膝蓋骨の再脱臼を予防するのは困難なため、それぞれ脱臼の状態や膝の形態に応じて術式を組み合わせます。大腿骨の骨切り術は脱臼が非常に重度な場合に実施されます。通常の膝蓋骨脱臼においては1から4までの手技を組み合わせて、手術する動物にもっとも適する形で手術を実施する必要があります。よく行われる縫縮や滑車溝形成術のみでは再脱臼が起こりやすくなることが、報告されております。