変性性脊髄症は、痛みを伴わず、ゆっくりと進行する脊髄の病気です。
後肢の麻痺から始まり、数年かけて徐々に前肢、呼吸筋の麻痺へと進行していきます。最初に報告されたのはジャーマンシェパードですが、現在では多くに犬種で発生が報告されています。近年、日本では特にウェルシュコーギーでの発生が増えています。
日本で発生の多いウェルシュコーギーの場合、症状は10歳頃になってから現れます。病気は背中の脊髄あたりから始まるため、発症時には後ろ足のふらつきなどの症状がみられ始め、徐々に動かせなくなります。進行すると前の方の脊髄まで病変が広がるため、前足にも同じ症状が出ます。最終的には首のあたりの脊髄まで病変が広がり、呼吸ができなくなります。これらの症状は、3年程かけてゆっくりと進行します。
四肢のふらつきは、ウェルシュコーギーで発生の多い椎間板ヘルニアでもみられる場合があるため、四肢がふらつくような症状を起こすその他疾患が存在しない事を臨床経過や、身体検査を含む綿密な検査などから診断をする事が重要となります。
原因について、現時点では不明な点が多く、はっきりとした病因は解明されていません。様々な説が提唱されていますが、2008年ミズーリ大学のチームにより、変性性脊髄症を発症した犬の多くで遺伝子変異があると発表され、注目を浴びています。
この遺伝子変異はスーパーオキシドジスムターゼ1(SOD1)というタンパク質を作る遺伝子が変異している事が知られています。このタンパク質は、細胞障害性を有する活性酸素を除去する働きがあり、人においてこの遺伝子変異は家族制筋萎縮性側索硬化症という遺伝病を引き起こす事が知られています。
現在、変性性脊髄症に対する特異的な生前診断法は確立されていません。
犬種や年齢、経過などから変性性脊髄症が疑われる場合にCTなどの精密検査を含む詳しい検査を行い、その他の疾患(椎間板ヘルニアなど)を除外する事で臨床的診断を下します。
また、前述したSOD1遺伝子の変異を調べる事も診断の補助になる場合があります。
現在の獣医療では変性性脊髄症に対する治療法は確立されていません。しかしながら、理学療法が病気の進行を遅らせる事がわかっています。
そのため、変性性脊髄症の場合には積極的に運動をさせる事が勧められています。これに対して椎間板ヘルニアの場合には、運動により症状が悪化する場合があるため、しっかりとした検査をしたうえで診断を下す事が重要となります。